小倉ひとつ。
「……立花さん」


ひくりと固まって、困り顔をして、口を開いたものの、うまく言葉が出てこなかったらしい。


口を開け閉めして結局閉じた瀧川さんが、弱りきった顔で私を呼ぶ。


こんなときでも瀧川さんは大きい声を出さない。そういうところが好きですけれど、寒いのに無理をするのはよくないと思います。


「申し訳ありません、お嫌でしたら振り払ってください」


慌てる瀧川さんにしれっと返して、振りほどかれないのをいいことに、大きな手を両手で持つ。


そのまま敷石を一つ進んだ。


困り顔でされるがままの瀧川さんが、恨めしげな瞳を寄越す。


「振り払ってくださいなんて、ひどいことをおっしゃいますね」


小さな呟きが落ちた。


「…………振り払えるわけが、ないでしょう」


それは私の手だからか。

私が、馴染みの店の店員だからだろうか。それとも、一応ちゃんと気遣いだからか。


拗ねと詰りを混ぜた声音に、なんて返事をしたらいいのか分からなかったから、ひとまず曖昧に口角を上げておく。


すみません、と言うのは失礼な気がした。
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