小倉ひとつ。
たくさん構ってもらったのに瀧川さんのことをあまり知らないのは、私が幼かったせい。


話を聞くより話をする方が好きな、幼くて賑やかでまとまりのない子どもの珍妙な話を、瀧川さんはいつも穏やかに聞いてくれた。


高校生になってもそんな調子で、話してばかりの私には、相槌を打ってばかりの瀧川さんのことを知る機会があんまりなかった。


……でも、それがよかったのかもしれない。


瀧川さんは若い女性客とは相席しない。


絶対に相席しないように一人席に座るか、馴染みの常連さんと相席する。


瀧川さんの顔馴染みのお客さんはみんな、男性か、おじいさんおばあさんばっかりなのである。


彼の一貫した対応に、誰も何も言わない。


事情は大まかに察せるけれど、何も言及しない。


ただ一緒にたい焼きを食べて、ときどき一緒にお抹茶をいただく。


瀧川さんが声高に頼んだのでも、苦労を語ったのでもないけれど、たい焼きを食べると少し緩むその口元を見れば、誰もが穏やかに受け入れた。
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