小倉ひとつ。
稲中さんが「かおりちゃんさえよければ、このままここに勤めたらいい」と提案してくださって、四月から少しだけお給料が上がった。
今はまだ扶養のことも鑑みてアルバイトだけれど、卒論が落ち着いたら、改めて待遇などを話し合うことになっている。
それならと、本当に極たまにだけれど、お掃除が早く済んだ日は準備中の奥さんが声をかけてくださって、お花や茶器を一緒に選ばせてもらえるようになった。
稲やでは稲中さんを店主とは呼ばない。
お父さんとかおじいちゃんとか、まあ当然なのだけれど稲中家のみなさんがそう呼ぶから、通っていた頃の名残りで、私は稲中さんと呼んでいる。
奥さんは奥さん。
息子さんたちは名前で呼ぶ。
基本お客さまにはさまをつけるけれど、瀧川さんから「さんで構いません」と言われたので、甘えさせてもらって(もちろん稲中さんに許可をもらっている)、瀧川さんを瀧川さまとは呼ばない。
勤め始めのときに張り切って瀧川さまって呼んだら、すごく困った顔をされてしまったんだよね。
「あなたに瀧川さまと呼ばれると、違和感が……」って。
瀧川さんは一番歳が近い常連さんで、私がとっても小さい頃に通い始めたときから私のことを知っている。
たまに顔を合わせると、よく構ってもらったものだった。
上品なお店できゃっきゃと目を輝かせてはしゃぐような子どもな私にも、普段大人に向けるのと同じような丁寧な口調で話しかけてくれた、八つ年上の綺麗なお兄さんは。
私が成長するのと八つぶんずれながら、八つ年上の綺麗な男の人になったのだ。
今はまだ扶養のことも鑑みてアルバイトだけれど、卒論が落ち着いたら、改めて待遇などを話し合うことになっている。
それならと、本当に極たまにだけれど、お掃除が早く済んだ日は準備中の奥さんが声をかけてくださって、お花や茶器を一緒に選ばせてもらえるようになった。
稲やでは稲中さんを店主とは呼ばない。
お父さんとかおじいちゃんとか、まあ当然なのだけれど稲中家のみなさんがそう呼ぶから、通っていた頃の名残りで、私は稲中さんと呼んでいる。
奥さんは奥さん。
息子さんたちは名前で呼ぶ。
基本お客さまにはさまをつけるけれど、瀧川さんから「さんで構いません」と言われたので、甘えさせてもらって(もちろん稲中さんに許可をもらっている)、瀧川さんを瀧川さまとは呼ばない。
勤め始めのときに張り切って瀧川さまって呼んだら、すごく困った顔をされてしまったんだよね。
「あなたに瀧川さまと呼ばれると、違和感が……」って。
瀧川さんは一番歳が近い常連さんで、私がとっても小さい頃に通い始めたときから私のことを知っている。
たまに顔を合わせると、よく構ってもらったものだった。
上品なお店できゃっきゃと目を輝かせてはしゃぐような子どもな私にも、普段大人に向けるのと同じような丁寧な口調で話しかけてくれた、八つ年上の綺麗なお兄さんは。
私が成長するのと八つぶんずれながら、八つ年上の綺麗な男の人になったのだ。