小倉ひとつ。
体温が上がったのは仕方がないと思う。だって、着せてもらえるなんて思わないでしょう。


ありがとうございます、とおずおず袖を通したら、私がそんな態度を取った理由を勘違いしたらしい。


「すみません、お嫌でしたか」


一応着せてくれてから申し訳なさそうに手を離した瀧川さんに、慌てて首を振る。


「いいえ、全然そんな、嫌だなんて。ありがとうございます。ただその、私はそういう気遣いがすっと出てこないので、すごいなと思いまして……」


訂正したくて言い募った言葉は、なんとか説得力を持たせられたらしい。ほっと口元が緩む。


「大学生の頃にスーツの量販店でアルバイトをしていたことがありまして。お客さまには必ずそうするように指導されたものですから」


瀧川さん、スーツが似合うもんね。


背が高くて足が長くてある程度肩幅があると、ジャケットを綺麗に着こなせる。


瀧川さんはそんなに肩幅がしっかりしているわけではないけれど、なで肩ではないのも大きいかもしれない。


ジャケットやかっちりした服が、なんだかものすごく似合うのだ。
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