小倉ひとつ。
「すみません、普段は気をつけているんですが、たまにくせでやってしまうんです……」

「いいえ、ありがとうございます。嬉しかったです」


反省しきりの瀧川さんに、にっこり笑ってコートのボタンをとめる。


びっくりしただけで、少なくとも私は全然嫌じゃない。

役得でした、ありがとうございます。大変素敵なくせだと思います。


手袋をごそごそ着けていたら、それでさっき寒かったことを思い出したらしい。


手袋取ってきます、と玄関を離れた瀧川さんが、ついでにホッカイロをいくつか持ってきてくれた。


「立花さん、ホッカイロいりますか?」

「手袋があるので大丈夫です。ありがとうございます」

「分かりました。ではこれは、明日使います」


持ってきたホッカイロをコートのポケットに忍ばせて、瀧川さんも手袋をはめる。


ポケットに入れておけば忘れない。明日の朝、瀧川さんの爪は紫色をしていないことだろう。


「明日も冷え込む予報ですものね」

「最近本当に寒い日が続きますよね」


マフラーをきつく巻きつけてしっかり防寒してから、荷物を持ってお部屋を出た。
< 227 / 420 >

この作品をシェア

pagetop