小倉ひとつ。
「瀧川さんは、あのお店に夜に行ったことってあります?」


並んで歩きながら、白い息を吐く。


明かりで暗がりの濃度が薄められているとはいえ、夜の暗闇にはっきり白く浮かんで、緩やかに後ろに流されていく。


「いえ、いつも朝に伺うので、まだ夜には伺ったことがないんです」

「それは楽しみですね。札は何番になると思います?」


あの三角の札は、お店を出るときには二十番を超えていた。


朝の時点でそうなんだから、きっとお昼時とお仕事終わりの夕方に人がいっぱい来て、夜もたくさんお客さんが来ているに違いない。


「五十番は超えているかもしれないですよね」

「もしかしたら、百番とか二百番とかかもしれないですもんね。でも、そんなに大きい数だと読むのが大変そうです」

「文字も小さくなりそうですよね」


ふたりでそんな予想を立てていたのだけれど、札はまたもや一桁だった。


やってくるお客さんも、そのぶん出て行くお客さんもいる。


札をある程度まで用意しておいて、一巡したら、最初から回すことにしているんだろう。


お店の座席数より十前後多く用意すれば、混雑時にも慌てず確実に札を渡せる。お客さんの管理やカウントは別の手段ですればいい。


「違いましたね」

「違いましたね。残念です」


全然読むの大変じゃなかったですね、なんて言いながら、案内されたテーブル席に座った。
< 228 / 420 >

この作品をシェア

pagetop