小倉ひとつ。
「中辛と甘口でしたらどちらがお好きですか? 俺はからくてもからくなくてもカレーならなんでも好きなので、立花さんのご無理のない方で」


あまりからさにこだわりはないらしい。ありがたい。


カレーはからくないとカレーじゃないって言う人もいるので、おそるおそる申告してみたのだけれど、瀧川さんが大の辛党でなくてよかった。


「中辛でしたら大丈夫です」

「分かりました。中辛で作りましょうか。準備はこちらでしておきますね」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」


その日の夜、何度かメールのやり取りをして、時間とか参考にするレシピとか、細々したことを詰めた。


日付は今週の土曜日。普段通りのお休みが重なる日。


基本、当日のお昼ご飯はたい焼きで済ませる方向で決まって。

カレーはそのままだとあんこみたいに成形できないので、冷やす時間を作るべく、通常の約束の時間を大幅に繰り上げることになった。


「行ってきます。瀧川さんとたい焼き食べてくるね」

「行ってらっしゃい、気をつけてね」


リビングから顔をのぞかせた両親に、はーい、と答えつつ靴を履く。


「あらあいいわねえ、わたしもたい焼き食べたいわ」


まだ少し肌寒い朝、羨ましがる祖母に笑いながら玄関を出た。
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