小倉ひとつ。
カレーなら抹茶は合わないというか、カレーの味が変わってしまったら悲しいからお水を飲みたい。


余計にからく感じるかもしれないし、逆に抹茶がすごく苦く思えるかもしれないし、今回は持っていかない方がいいよね。


カレーたい焼きを成功させられるように、ひとまず手土産よりレシピを調べる方を頑張ろう。


「よかったです」


ふわっと笑ってくれた瀧川さんに、でもあの、すみません、とそうっと断りを入れる。


子どもっぽいって笑われ……はしないと思うけれど、どうしても声が小さくなった。


「大変個人的なことで恐縮なんですが、あまりからくないものでお願いしてもよろしいですか」


そろりそろり、視線が下がる。


「お恥ずかしながら辛口のカレーは苦手でして、あまりからいものだとご一緒できないと思います……」

「分かりました、あまりからくないものにしましょう。ご一緒できないのは嫌ですから」


縮こまった私に、穏やかな笑い声が降ってきた。


「っ」


え、嫌ってはっきり言われた。残念とか寂しいですねとかじゃなくて、嫌って。


もどかしいくらい言葉を選んで整える瀧川さんの、さらりと混ざった珍しい言葉選びに、思わず目をしばたたく。


……社交辞令じゃなくて本音だって、期待してもいいだろうか。


いや、社交辞令で本当にお家にお招きしてくださる方なんていらっしゃらないとは思うけれど、

だから作るものを詰めている時点で社交辞令ではないと思うんだけれど、瀧川さんが嫌とおっしゃるのは初めて聞いたかもしれない。


嫌なんて本来ならマイナスな意味の言葉を、瀧川さんは、ふいにこぼしたときでさえ優しい意味で使うんだなあと、そんなことを考えた。
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