小倉ひとつ。
ただいま帰りました、とただいま戻りました、のどちらにするか迷って、曖昧にしておく。


「ただいま」と「おかえりなさい」をお互いに言い合って、少なくとも私は結構もろにくらいつつ、カレーたい焼きをつくった。


やっぱりおいしい。さすがカレーさんである。万能だ。手軽で美味しい。


一応ふたつ多めに作ったので、そのぶん余った。冷凍しておけば明日までなら大丈夫だろう。


ひとつ持ち帰ろうかとも思ったんだけれど、鞄にそのまま入れたら、カレーの染みを作るか袋ごと潰して食べられなくするかしそうで怖い。持ち帰るのは難しそうだった。


残りのカレーたい焼きは明日までに食べてもらえるということで、申し訳ないけれど瀧川さんにお願いする。


遅いお昼のたい焼きをのんびり作って食べて、たくさんお話したものだから、駅までご一緒します、とコートを手に取った瀧川さんに遠慮する言葉が見つからないくらいには、時間帯の割にもうすっかり暗い。


家々の明かりに負けずに、街灯が明確な輪郭でコンクリートを照らしている。


春めいてだんだん分厚いコートや手袋はいらなくなってきたけれど、まだまだ冬の夕方ゆえの暗さだった。


「今日はありがとうございました」

「いえ、こちらこそ、朝早くからお邪魔してすみませんでした。また是非誘っていただけたら嬉しいです」


靴音を揃わせながら、瀧川さんが遠慮がちな確認をした。


「何度もお誘いしてはご迷惑になりませんか?」


思いがけない問いかけすぎて、考える間もなく反射的に答えていた。
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