小倉ひとつ。
「それでは、改めましてご卒業おめでとうございます」

「ありがとうございます」


そうだ、写真をお見せする約束をしているんだった。


こういうのは早い方がいい。ささっと見せてささっと話題を変えるのが吉。


まだ話題が尽きないうちにお見せしてしまった方がつらくない。よし。


「すみません、ちょっと失礼します」

「はい」


鞄からスマホを取り出して、お気に入りに入れておいたゼミ仲間での集合写真を選び、画面を少し明るくした。


「ああ、お写真ですか? ありがとうございます」

「いえ、とんでもないです。あの、生あたたかい目でご覧くださいね。……どうぞ」


手渡したスマホを、失礼します、と瀧川さんは名刺のように丁寧に両手で受け取った。


「立花さんはどちらに?」

「こちらに。この前列右から二番目です」


指し示したものの、静かな瞬きを返される。


「すみません、小さくてあまりお色が分からず……こう、もう少し大きく映っていらっしゃるものは」

「ありますが駄目です」


わざとですよ。意図的に集合写真で小さく映っているものにしたんですよ。


勢いよく遮った私に、どうしてですか、と瀧川さんが笑った。
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