小倉ひとつ。
「おはようございます」

「おはようございます。今日も髪可愛いですね」


手慣れた挨拶に「ありがとうございます」と笑って、隣を歩く。


瀧川さんはいつも服より髪を褒めてくださる。


服は見当をつけて試着して選ぶだけだけれど、髪は頑張ってお手入れをして髪型を考えて、検索して道具を揃えて、当日は早起きをして……ってより手間をかけているので、個人的には髪の方が嬉しい。


「お店、こちらでしたよね?」

「こちらだと思います」


ちょっと心配だけれど、多分この方角なはず。お互い地図アプリを開きつつ角を曲がると、無事控えめな看板が見えた。


映画館に行きやすいように、映画館付近のお店がお昼の候補に挙がっていて。

あまり映画館に近すぎて、私たちと同じく映画前後の待ち時間のお茶兼お食事をする人で混雑がひどいと悲しいので、歩いて五分程度離れたところにある、少しカジュアルな感じのフレンチを選んだ。


名前を告げてコートを預け、席に案内してもらう。


お水をいただいたところで、ようやくお互い笑い合った。
< 330 / 420 >

この作品をシェア

pagetop