小倉ひとつ。
それから、誘ったり誘われたりして、何回かデートに行った。


時間がかかりすぎないようにか、ご飯にかこつけて、というのが主だった。

まだお酒は難しくて、夜じゃなくてお昼だけ。


友人とだとふたりとも気後れして行けなかったホテルのアフタヌーンティー、何年ぶりかでこちらに来ることになった絵画の美術展、こ……恋人割りがあると有名な水族館、美しい内装の図書館、前々から行ってみたかったピアニストの方のコンサート、小さな博物館、厳かな庭園。


選ぶのはお互い静かな場所が多かった。


その全てが優しく甘い思い出に変わって、急速に溜まる写真とともにゆっくり積もっていく。


何回かお食事をして、このお店に行きたいな、といつもより遅い時間帯とお酒が飲めるお店を指定したら、お店に着いてから、穏やかに瞬きをされた。


控えめな視線がこちらを向く。


「今日はどうする? 飲む?」

「う、うん」

「了解。……喜んでいいのか残念がればいいのか分からないな」


緊張しなくなったんだからめでたいと思う。


くすくす笑っていたのだけれど、乾杯してからというもの、こちらを見つめる要さんの目があまりに優しい甘さをしているので、なんだか胸がいっぱいになってきた。


胸焼けしそう。
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