小倉ひとつ。
長年できなかったことだし。

欲しいものはそのときそのときに自分で買ってしまうから、贈り物はいらない。となると、形がないものばかりになる。


要さんとお出かけするのは楽しい。ご飯を食べるのも楽しい。素敵なものを見て回るのも楽しい。

全部が合わさって、それにお祝いだなんて名前がついたら、もう最高に決まっている。


「俺も嬉しいし楽しいよ。でも、お祝いにしなくたって、デートくらいいくらでもするのになあって」

「うん、それは分かってるけれど」


要さんが、お誘いしたら一緒に行ってくれるっていうのは分かっている。


「もちろんなんでもない日になんとなく一緒に出かけるのも楽しいけれど、でもその、お祝いにして約束したら、約束した日からずっと楽しみにできるでしょう?」


まだかなまだかなって指折り数えて待つのってすごく楽しいし、たとえ約束した時間が終わっちゃっても、撮り溜めた写真を整理しながらあれが楽しかったな、これが楽しかったなあって思い返せるし、お出かけした時間だけじゃなくて、その前後も全部お祝いに変わる。

ふいに思い出すだけで幸せになれるって、擦り減ってしまわずに後からでも楽しめるって、すごいことだと思う。


ものはいつか壊れる。もちろんそれを使いながらだって思い出は増えるけれど、プレゼントをもらう前は思い出にはならない。


記念日を増やしたいってことではなくて、ただ単に、私は欲張りなのだ。


今はまだ、お祝いしてもらう前も、お祝いしてもらう当日もその後も、全部全部眩しい時間に変わる方が嬉しい。
< 375 / 420 >

この作品をシェア

pagetop