【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-



うん、とうなずいた由真は、春が持っていた荷物のひとつを「持つね」と自然に受け取った。

……由真は春が好きだし、春が嫌がらない程度には、ふたりにしておいても大丈夫か。



「莉胡も、ちゃんと誰かといてよ。

こんなとこでナンパされていなくなられたら困る」



「わかってるわよ。

去年もさんざんみんなに言われたし」



「それでもナンパされて十色さんから小言をもらった女は誰?」



過去の話を指摘すれば、頬をふくらませる莉胡。

拗ねてるなと小さく笑えば、余計に拗ねたようにそっぽを向く。海に向かう間、重い荷物を運ぶのは男6人。そのせいで両手が塞がっていて、莉胡の頭を撫でられないのが惜しい。



「俺と一緒にいたらいいよ。

……ナンパぐらい追い払ってあげる」



そむけていた顔をこっちに向けた莉胡が、小さく「うん」と答える。

その表情がわずかながらうれしそうで、今日まで仲直りしていなかったことを恨んだ。




「……千瀬、」



「ん?」



「……ううん。なんでもない」



なんでもないのに……なんでそんなうれしそうな顔してるんだか。

……でも、泣き顔を見るよりは、ずっといい。



「飲み物買いに行った方がいいよね……?

せっかく手空いてるから、って思ったんだけど、女子ふたりで移動しちゃだめなんだよね。誰か一緒に来てほしいな」



由真がそう言いながら、ちらりと俺を見る。

春に声をかけてほしいのは見てればわかるから、作業しながらさりげなく口を開く。



「織春行ってきたら?

あ、莉胡、ちょっとそれ取って」



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