【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
「もちろん夏川さんから頼まれたからに決まってるだろ?
"莉胡が友だちと海に行くから"って」
「ごめんちょっと意味がわからない」
「莉胡が旅行に行くなら、その行き先に関係者を手配する。
夏川さんは本当に莉胡のことを大事にしてるからね」
「溺愛にも程がある」
はあ、とため息をつく千瀬。
どうやらお父さんがわたしの行き先を告げて、ちあちゃんがこの付近に来ていたらしい。うん、ちょっと怖いよお父さん。
というかちあちゃんは、お父さんの仕事上の部下だけれども。
ちょっと好きに扱いすぎというか、なんというか。いやもちろん、数年ぶりにちあちゃんに会えたことはものすごくうれしいんだけど。
お父さんの指示にほいほい従っちゃうちあちゃんもどうなの。
「ちあちゃん、わたしがまた地元に帰ったら、
ちあちゃんは今度どうするの……?」
「ん?ああ、俺は仕事に帰るよ。
デスクワークも残ってるし、支店も任せっきりだからね」
「ちゃんとそっちの仕事もしてちあちゃん……!」
わたしのために仕事を任せてきてどうするの!と。
怒るわたしと、「へいきだよ」と微笑むちあちゃん。その笑顔にマイナスイオンが多数ふくまれてそうだけど、そうじゃないのよちあちゃん。
「それにもし、莉胡が夏川さんに"困ったこと"を伝えてくれてなかったら、俺は近くの別荘で1泊2日自然を体験して帰るだけになってたよ?」
「……なんかごめんね」
今度お父さんが帰ってきたら言っておこう。
わたしのためにちあちゃんに無理をさせないでって言っておこう。わたしが海外に行くなんて言いだしたら、その先にまでちあちゃんを派遣してきそうで怖い。