私のご主人様Ⅱ

組員たちが広間を出て、残されたのは季龍と梨々香、伸洋、源之助、田部の5人のみ。

源之助は湯飲みに入ったお茶を飲みきると膝に手を付き、立ち上がる。

「季龍、お前も休め。根を詰めるなよ」

「分かっています。…親父、琴音のことを組員の前で、本名で呼ばないでくれないか」

「…なぜ?」

季龍の言葉に足を止めた源之助は、意味ありげな視線を季龍に向ける。

だが、季龍が源之助に視線を向けることはなく、その視線が混じり合うことはない。

「…琴音の未来を潰したくねぇ。それだけだ」

「…お前がそう言うなら、仕方ないな。…でも、まだ思い出しとらんとはな」

「は?」

急にからかうような声に変わった源之助に、季龍は間の抜けた声を出す。

意味がわからないと言うような季龍に、源之助はただ意味深な笑みを浮かべるだけ。それがますます季龍の困惑を招く。

季龍には、思い出すこととそれがどのような関係があるのか、訳がわからなかった。

だが、源之助は笑うばかりで何も明かそうとはしない。
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