旦那様と契約結婚!?~イケメン御曹司に拾われました~
「拍手はぜひ、私ではなくこのような機会をくださったこちらの関オーナーに」
玲央さんのひと言に、言われた通り、その場の人々は関さんへと拍手を向けた。
てっきり玲央さんに恥をかかせられるとばかり思っていたのだろう。
拍手を送られた関さんは戸惑い、バツの悪そうな顔で玲央さんを睨んだ。
「今のうちに行くぞ、杏璃」
「え?あっ、はい!」
その隙に、と玲央さんは私の手を引いて歩き出すと、人の輪から外れていった。
ヒールの足元で必死に彼に続きながら歩く。けれど、そんな私の手を引く彼の手は、微かに震えていることに気づいた。
手……震えてる。
きっと、怖かっただろう。緊張、しただろう。
だけど、それでも乗り越えてあんなに素敵な曲を聴かせてくれた。この大きな手が、愛しい。
私と玲央さんは、そのままホールの一番端にあるひと目につかない小さなテラスへと出た。
ひゅう、と吹いた夜風が少し冷たくて、ドレスから露わになった肩を無意識にさすると、玲央さんはそれに気づいたようにスーツのジャケットを脱いで私の肩にそっとかけてくれた。
「すみません、ありがとうございます」
「いや、いい。少し風が冷たくなってきたな」
隣に並ぶように立つ、ジャケットと同じ色のベスト姿になった彼は、夜風にふわりと茶色い髪を揺らした。