旦那様と契約結婚!?~イケメン御曹司に拾われました~
『レオ・タチバナー……』
司会者に呼ばれた名前に、満員の客席から大きな歓声があがる。
大きな会場のステージの上、いつものようにスポットライトに照らされた俺は、笑みを浮かべてピアノの元に着いた。
そして鍵盤に手を置いて、変わらぬ調子で弾き始める。
俺のピアノの音に、人々は目を閉じ耳を傾ける。その場の全員の神経が、こちらへ向くのを感じた。
けれど、ほんの一瞬のことでそれは崩れた。
ピリッと親指の付け根にはしった痛み。次の瞬間にはその痛みで指が動かなくなり、その場がしん、と静まり返った。
『っ……』
動かない。
動かさなくてはいけないのに、演奏を続けなければいけないのに。
沢山の人の期待の眼差しの中、頭の中が真っ白になる。
そのうち襲う親指の付け根の痛みに、これまで頭の中から消えたことのなかった譜面が全て飛んで、そこからは記憶がない。