旦那様と契約結婚!?~イケメン御曹司に拾われました~
『玲央……もう、ピアノのことは忘れましょ。あなたはあなたで生きていけばいいの』
『ピアノを、忘れる……』
『まだ遅くないわ。社会人として、新しく生きていけばいい』
ピアニストとしての自分を、捨てる。
別の人間として生きていく。
ピアノへの情熱、楽しさ、愛着。それらを全てあの部屋に押し込めて、忘れてしまえばいい。
それが一番ラクになれる方法だから。
それに納得した俺は、父の持つ会社のうち、ホテル事業であるこのホテルのオーナー社長という立場を引き継ぐべく勉強を始めた。
これまで知らなかったことを学び、仕事や会社のことを考え、これまで興味のなかった恋愛や友人との付き合いに時間を費やすうちに、心のなかからピアノへの思いは薄れていった。
経営を学びながらもオーナー社長という立場になり、長谷川さんやノワールと出会い、使用人も雇い……日々は満たされていく。
時折思い出したように部屋のドアを開けるけれど、触れればまた苦しくて、ひとり荒れて部屋を出た。