旦那様と契約結婚!?~イケメン御曹司に拾われました~



「……あなたがもし、この世で一番好きな食べ物を目の前から没収されたとして、それを『仕方ない』と諦め忘れることは出来ますか?」

「一番好きな、食べ物を……」



一番好きな食べ物。お肉に魚にサラダにスイーツ……どれが一番かは決められないけれど、それらを目の前から奪われたら。



「む、無理です……!寝ても覚めても考えちゃう!」



想像しただけで耐えきれない。深刻な顔で言い切ると、こちらへ向けられる檜山さんの目は冷ややかだ。



「それが、立花社長にとってのピアノなんだと思います。……きっと、本当は好きなんですよ」



玲央さんの、ピアニストだった時の話を聞いているのだろう。静かにつぶやく彼の声だけが響いた。



……やっぱり。玲央さんは、自分に言い聞かせているだけなんだ。

好きなものを諦めたくて、仕方ないと割り切りたくて、距離をとってわざと心を離している。

触れればつらい思い出ばかりが、よみがえってしまうから。



だけど、その『つらい』の感情の向こうにあるものは、『好き』なのだと思う。

好きだからこそ、失ってつらい。

苦しくて、もどかしくて、先日あの部屋に入った際に散らばっていた楽譜は、彼がぶつけた苛立ちだったことに、気づいた。



玲央さんの気持ちを思うと、それだけで、胸がぎゅっと締め付けられた。







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