長い夜には手をとって


 私はふんと前を向く。

「別に何もっ!星座、詳しいじゃない、伊織君?一角獣座なんてあるの私は知らなかった」

「気になるから一度調べたことがあったんだ。星空撮ることも多かったし、そういえば俺って星なんかは何も知らないなーと思って。それよりさ、凪子さん、これは真面目になんだけど」

「うん?」

 声が改まったから、私はムスッとするのをやめて彼を見る。さっきまでのニヤニヤ笑いじゃなくて、ちょっと照れたような微笑を浮かべて、伊織君が言った。

「口付け、してもいい?俺タバコ吸ったばかりで多分苦いけど」

 私はまた目を見開いた。

 伊織君はそっと顔を近づけながら言う。

 だけど、凪子さんはチョコも食べたから、大丈夫だよ。きっと苦さはわからない――――――――

 私の立膝に伊織君の肘が置かれる。冷えた指先がするりと私の頬から耳を覆って、タバコの香りが鼻をつく。伊織君は目を細めてゆっくりと唇を重ねた。

 ――――――――――あ。

 ようやく私の頭が動き出したのは、キスが深くなりだしたからだった。

「・・・い、お」

 冷たかった唇はすぐに温められてしまった。タバコの苦さ、それにチョコやコーヒーの味も。全部を混ぜて、伊織君は何度も口付けをする。舌が差し込まれ、絡めとられて吸い上げられる。

 私は抵抗も出来ず、ただ目を瞑って両手をぎゅうっと握り締めていた。寒い夜の中にいて、体は燃えるように熱い。むさぼるようなキスだったのがやがてゆっくりになり、伊織君は最後に柔らかく唇を押し付けて、大きく息を吐き、顔を離した。


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