長い夜には手をとって


「・・・ごめん、これ」

 彼が言った。私はまだ目をぎゅっと瞑ったままで、ただ伊織君の低い声を聞いていた。全身を耳にして。

「からかってる内に、ちょっと我慢出来なくなって。でもこれでやめとくよ。凪子さんを怖がらせたりしたくないから」

 頬にあてた手を頭の上へもってきて、彼はよしよしと私を撫でる。

 それから、毛布を全部私にかけて、立ち上がった。

「コーヒー、ご馳走様。俺は先に寝るね。凪子さん、ここで風邪引かないように」

 カラカラと窓ガラスの開閉の音。それから流しでコップを洗う音、布団を畳んで二階へ上がっていく音がした。今晩から二階の自室で寝るって、そういえば夕食の時に言っていた。

 私はそろそろと目を開ける。

 見えるのは、相変わらず真っ暗でしんしんと冷えている静かな庭だった。

 毛布に包まれていて、自分のはく息は膝で跳ね返って顔にあたる。

 ・・・・あら。

 ・・・あらあら、あらー・・・。

 両手でバシッと頬を挟んだ。痛い。痛かった、今。それに、柔らかくて優しくて、気持ちよかった、さっきの――――――――


 ・・・キス。



 も、ダメだ。

 私はそう思ってバタリと縁側に寝転がる。

 ここで寝ちゃって熱でも出せば、考えることを放棄できるだろうか!そんなことを考えて、一人で顔を真っ赤にしていた。


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