長い夜には手をとって


 外国からの出張帰りでまだコートを着たままの伊織君が、台所でコーヒーを淹れながら振り返る。居間のソファーでごろごろして彼の写真雑誌を見ていた私は、よっこいしょと起き上がりながら、ほんとねと返す。

「宅急便かも。俺の洗濯物」

「洗濯ものだけじゃなくて、たまにはお土産も入れてくれると嬉しいんですけどね~。・・・はいはーい?」

 我が家の玄関のドアには来客の確認穴がないので、いつも通りに先に声をかけるのだ。すると―――――――――

「うぶ、ぶー・・・ば!」

 ・・・はい?

 聞こえてきたのは意味不明な声・・・というか、音?私は怪訝な顔して振り返る。伊織君もこっちを見ていたけれど、作りかけのコーヒーをシンクに置いて歩いてきた。

「何?」

「・・・さあ?」

 私はちょっとびびりながら、それでも手を伸ばして鍵を開ける。そしてドアをひき開けた。

「―――――ばあ!」

 そこに、どーん!と居たのは、赤ん坊だった。

 つぶらで真っ黒な瞳を大きくあけて、ついでに口もぱっかーんと開けて、機嫌が良さそうな顔で私達を見て涎を垂らしている。もこもこのオレンジ色の服を着込んで、涎掛けを首に巻いていた。

「・・・・・」

「・・・・え?」

 私と伊織君は目を点にして、誰かに抱きかかえられて空中に浮かぶ赤ちゃんを見詰める。玄関を開けたら赤ちゃんが空中に浮いていた、なんて、そんな経験したことある?


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