長い夜には手をとって
自室の掃除、それから自分の食材の買出し、共有スペース、つまり一階の掃除にコインランドリーにも行って(この家には洗濯機はおいてない)、午前中はよく動いた。思いっきりダラダラと過ごすはずだったのだけど、それは明日でも出来る。今日は予定が出来たのでもう日曜日にする家事も全部済ませることにしたのだ。
それからしっかりと化粧をして、時間をかけて服を選び、出かける。
いつもは職場との往復くらいなのでさほど服装に気を使わないのだけれど、今日はそういうわけにはいかないだろう。写真スタジオなんて行くのは成人式の時以来だし、第一あの有名な写真家の阿相さんのスタジオなのだ!もしかしたらモデルさんなども居たりして、超華やか~な場所かもしれない。
そんなところに、近所のスーパーへいく格好でいけないではないか。一応年頃の女性だという自覚はあるし。
お昼すぎでも太陽は弱弱しく、駅のホームの上は冷たい風が吹いている。伊織君の名刺を見ると、私は利用したことがない線だったのだ。ちょっと緊張した。
電車を乗り継いで40分ほど。案外近くの場所で、伊織君は働いていた。
『スタジオ阿相』の外見はモダンな倉庫、という感じだった。装飾の少ない外見、高い場所にある窓も横に細長く、ドアも中が見えないような鉄扉。
インターフォンを探してしばらくウロウロしたけれど、どうやらそういうものはないらしい、とようやく気がついて、私は鉄扉を開ける。