長い夜には手をとって


 ゆっくりと開いたら、そこには20畳ほどの広い部屋と、入ってすぐの所に受付と書かれたカウンターがあった。ここで商談などもするのか、外側とは違って上品で爽やかな内装。クリーム色の壁、コバルトブルーの対のソファー、ガラスのテーブル。観葉植物が適度な距離を保って置かれ、空気清浄機がピンク色の液体を回しながらオブジェの役割も果たしている。電話とパソコンが無造作に置かれた作業机は、多分誰かアーティストの作品なのだろう、シンプルなのにひときわ存在感を放っていた。

 無人で、呼び鈴もない。え···これどうしたらいいの?奥の方に見えるドアに向かって、すみませーんと叫ぶべき?

 私が悩みつつ仕方なく周囲を眺めて突っ立っていたら、奥のドアが開いて、若い女の子が顔を覗かせた。

「はーい?お待たせしました!」

 どうやらセンサーか何かで奥には来客がわかるようになっているのだろう。長い茶髪をポニーテールにした学生さんのような女の子は、走ってきたのか呼吸が乱れている。切れ長の瞳がミステリアスな雰囲気の、なかなかの美人さんだ。その彼女が首をかしげたので、ハッとした。あ、いかんいかん。ぼけっとアホ面してしまっていたわ。

 私は慌てて笑顔を浮かべると、その子にむかって言った。

「水谷さん、いらっしゃいますか?届け物なんですが」

「あ――――――――、えっと・・・はい」

 女の子は一瞬怪訝な顔をしたあと、頷く。うん?何だろう、この間は。彼女がそう言ったまま観察するように私を見ているので、笑顔を浮かべているのが困難になってきた。


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