長い夜には手をとって
「菊池さん久しぶりー。元気そうだな。今はどこで働いてるの?」
「あ、銀行ですよ~。塚村さんと同じところ。たまたま派遣先が一緒で嬉しかったです。お昼一人で食べるのって寂しいから」
「知らないところでだったら余計そうかもね。あのラグビーの彼氏とはまだ続いてる?」
「はい、まだ仲はいいですよ」
彼らがニコニコと世間話を始めたので、私はよしここが頃合だ、と思っていきなり口を挟んだ。
「ごめんね、話してるとこ悪いけど。もう暑いしちょっと人にも酔ったから、私はこれで帰るね」
え?と二人が同時に私を見る。
「もう帰るの?えー、私はまだ飲み足りないのに~」
菊池さんがそういうのに、私は彼女の肩をポンポンと叩く。
「まだ居て飲んだらいいと思うけど、チャンポンするのはやめといてね。月曜日に職場で失敗談聞かされるのは嫌だから」
「うっ、言い返せないのが辛いっ・・・!でもまあ気をつける~」
じゃあね、と彼女に言って、弘平はスルーして歩き出す。すると後ろからヤツがついてきたから、立ち止まった。
「・・・どうしてついてくるの?」
「いや、俺ももう帰ろうと思ってたんだよ。お前が津田さんに挨拶いくなら俺も、と思って」
「・・・あ、そうですか」
小声で呟いたところで、弘平が、あ、と言った。
「津田さーん!居た居た」
振り返ると今日の主役、実は結構近くにいたらしい。
津田さんはダウンライトの灯りの下、眼鏡の奥で目を細めて私達を見た。