長い夜には手をとって


 また二階に上がって着替えるのは面倒くさいので、何とかそこで着替え、洗顔をして髪を整える。あ、でもそうか!パジャマもソファーに置き去りってわけにはいかないんだよね!だってソファー退けて布団敷いたもんね!ため息をついて、結局私は自分の部屋まで上がり、パジャマを放り込んで下へと戻る。

 朝から膝が鍛えられるわ~。

 規則正しい寝息をたてている伊織君を起こさないように、出来るだけ静かに朝食を作り、テレビの音量を下げてテーブルについた。

 行儀が悪いのは百も承知だが、朝食を食べながらの化粧はやめられない。だってこれをしないと電車に乗り遅れるのだから。

 軽く焼いたパンを口に突っ込みながら化粧水を塗りこみ、乳液も塗りこみ、日焼け止めを兼用している化粧下地を塗る。ファンデはしない主義だ。粉だけを軽くまぶして、眉に墨を足す。アイシャドーもなしでマスカラだけ。これで私の毎朝の化粧は終了。

 手を洗ってから昨日の残りのご飯でお握りを作り、ラップをしてお茶と一緒にテーブルに置いておく。伊織君が起きたら食べるだろう。

 コートを着て鞄を持ち、テレビを消す。そして出来るだけ静かにパンプスをはいて、玄関のドアをしめた。

 ドアを閉めた瞬間に、は、と詰めていた息を吐き出す。

 ・・・あ~・・・気を遣うわ。ま、今日は初めてだから仕方ないかもだけど。きっと慣れたらそんなこともなくなるよね。

 私は自転車に乗って駅へ向かう。これからは、いつもの平日の朝と同じはずだ。



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