甘くて苦い恋をした
「早速、トイレチェックをと思いまして…」
彼女はトイレの洗面台を見回しながら、チェックシートに手際良く記入していった。
「そっか… 大変だね 時間外なのに…」
坂口さんとまともに喋ったのは、多分初めてだ。
「いえ… 加瀬さんと色んなお店行けて楽しいですから」
またまた、ズキンと胸が痛む。
「そっか…」
「あの… 加瀬さんって、彼女いるんでしょうか…?」
「えっ あー どうだろうね 私と組んでた時はいなかったと思うけど… 何で?」
動揺を隠しながら答えると、彼女は真剣な顔でこう言った。
「いたら彼女に悪いなって… もし逆の立場なら、きっと許せないと思うから…」
「え…」
「あっ いえ すみません 今のは忘れて下さい! それじゃ、私、チェック終わったので、お先に戻ってます」
坂口さんはそう言うと、慌ててトイレから出て行ってしまった。
えっ… 何、今の
どういう意味?
彼女が許せないようなことをしてるってこと!?
何だか、嫌な想像しか浮かんでこない。
真相は分からないけれど…
もう嫌だ…
帰りたい…
深くため息をつきながら、トイレから戻ってみると、加瀬さんと坂口さんの姿が消えていた。
「ああ 加瀬達ならスタッフルームに行ってるよ… すぐ戻るから二人で飲んでてって」
「そうですか…」
「沙耶ちゃん 何かあった?」
「いえ… 何もありませんよ!」
ちょっと乱暴に答えて、目の前にあったグラスに手を伸ばした。
「ああ、それ さっき適当に頼んだ梅酒ロック」
「何でもいいです… お酒なら」
私は一気に飲み干した。
もう、半分ヤケだった。
「沙耶ちゃん そんな飲み方…」
「いいんです なんか今日は飲みたい気分なんです」
言っているうちに、アルコールが一気に回ってきた。
「これ、もらってもいいですか?」
結城さんが飲んでいたグラスにも手をかける。
「おい それ 度数の高いヤツ!」
制止する結城さんをを無視して、一口飲んだ。
体が熱くなって、何だか胸の痛みが軽くなっていくような気がした。