俺様社長と付箋紙文通?!
のどかな景色を堪能する間もなく、30分で現地に到着した。見渡す限り、田んぼと畑の、北海道すら思わせる平坦な場所だった。遠くにはカントリーエレベーターが構え、近くではひばりがうるさく鳴く。こんなド田舎にショッピングモールなぞ建てて集客があるのか不安だが、宮下から手渡された資料に目を通す。1キロ先で南北に走る国道と東西に走る国道が交差することからこのあたりに車道を引けば交通量の概算はかなりになる。近くにはローカル線もあり、駅を新設すれば車を持たない学生や子どもも寄りやすくなる。近郊の街は10キロ以上離れているが、車社会の田舎なら10キロの移動は東京でいえば地下鉄ひと駅に相当する。土地は安い。ここに超大型ショッピングモールが建設されれば、あっという間に道路が張り巡らされ、郊外型の店舗が、そのすそ野には住宅街が広がる。その風景が俺の目に浮かんだ。いける、そう直感した。

同じことを思ったのか、サングラス越しに親父の目が光ったのがわかった。


「親父、いけるな、ここは」
「お前もそう思うか」
「ああ。土地も安いうちに一帯を押さえて、どでかい街……設楽タウンを作ろう。善は急げだ。早速明日にでも土地を買い占める。自宅直帰はしないでオフィスにもどる」
「そうだな」


こんなときの親父は俺の同志だ。設楽グループの傘下にあるチェーン店を勢ぞろいさせて、街を完成させる。何百億、いや何千億の金を転がしていろんなものを建てよう。

そのあとはヘリでとんぼ返りをして、41階のオフィスにもどった。宮下はすでに退勤していて、俺のデスクの上には茶色い紙袋が置かれていた。手に持つと、意外と重い。紙袋にはハンコが押されていた。


「あったか☆ドーナツ? ああ、赤い屋根の販売カー、か」


どでかい街構想にうつつを抜かしていた俺は、宮下にドーナツを頼んでいたことをすっかり忘れていた。ドスンと椅子に腰かけ、その紙袋を開ける。その瞬間にシナモンの匂いが部屋に広がった。袋から突き出している棒をつまんで引っ張り出すと渦巻き型のドーナツが現れた。見た目はぺろぺろキャンディの、直径15センチはある巨大ドーナツだ。片面にはホワイトチョコで波線が描かれ、その上からシナモンパウダーが振りかけられている。うまそうだ。
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