俺様社長と付箋紙文通?!
ルームサービスのひとに、ボスさんにひとことお礼を伝えたい、とお願いしたけど、部屋をお取りいただいたご依頼主さまにはのちほどお伝えしておきます、の一点張りだった。まるで私に素性を明かしたくないみたいで、寂しかった。私に会いたくないのなら、電話一本でいい、声を聴かせてほしいと思う。でもこうしてなんのアクションも取らないのは私はどうでもいい存在なんだと知らしめたかったに違いない。それはボスさんとバリキャリ女史がつきあっていて、彼女に無用なやきもちを焼かせないためだという証拠でもある。

何も考えたくない。ならいっそのこと設楽シャチョーでも来てくれたら、うるさくてにぎやかで楽しいかもしれない。ちょっとむかつくことを言われても、こんな寂しさを吹き飛ばしてくれるならそれでもいい。

設楽シャチョー、なんか頼もしかった。私が見知らぬ男に首をつかまれそうになって、すんでのところで設楽シャチョーが私と男の間に入った。ネックレスのチェーンに指をかけられていた私は犯人があきらめて離したと同時にバランスを崩した。設楽シャチョーが振り返って、慌てた顔ですぐに手を差し伸べてくれたけど、とろい私は社長の手をつかみ損ねた。すぐ次の瞬間には青空に星が舞っていた。心配してくれた彼。今日の出来事は確かに怖かったけど、設楽シャチョーがいれくれたら怖くない。

そうだ。設楽シャチョーにもお礼を言わないと。今日は助けてもらったし、大学病院にも口をきいてくれた(お願いもしてないけど)。

ボスさんにもお礼をしなくちゃ。何がいいだろう。やっぱりドーナツだろうか。きっとドーナツを待っているだろうから、明日も販売できるようにウォール社長に電話しておこう。



*−*−*

冬の太陽は低い。まぶしさに目を細めながらオフィスから下をのぞく。昨日の今日で出店を再開しなくてもいいものを、赤い屋根のドーナツカーは今日も駐車している。ゆっくり休めと便箋に書いたはずだが読んでいないのか、けしからん。ドーナツを求める人の列が10メートルに渡ってできていた。だが懸念材料はこれだけではない。そこから少し離れて、別の人だかりがある。数人で大きな横断幕をかかげていた。“設楽ショッピングタウンとちぎ建設反対!!”。豆粒ほどだがこの41階からも読めた。
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