俺様社長と付箋紙文通?!
オフィスの窓から空を見上げた。三日月が輝いている。そのさらに上を見ようとして俺の視界には天井が映った。この9フロア上にサキホはいる……管理人室長の田中と玉ねぎ娘と。いまごろメインディッシュの肉をほおばっているところだろうか。俺も食いたかった。別にサキホと食いたいわけではい。腹が減っているだけだ。なにかデリバリーを頼むか。隣の宮下の部屋に通じるインターフォンを押そうとしてやめた。

ドーナツが食いたい。今日はあんな事件があってドーナツを食べ損ねた。犯人は取り逃がしたが、サキホが無事だったことは幸運だった。我がB.C. square TOKYOの表玄関、エントランスパークで負傷事件が発生したとなれば傷がつく。別段あのモドキが心配だったわけではない。

また犯人が現れるとも限らない。明日からは警備員を増員するよう管理人室長の田中に伝えよう。監視カメラもだ。何があってもサキホを、いや、エントランスパークを守らねば。

この手にサキホのやわらかい肌の感覚が残っている。鼻の奥にはサキホの甘い匂いが残っている。今晩、あの部屋に彼女がいる。ぶんぶんとかぶりを振る。何を考えているのだ俺は。



*−*−*

テツ子さんと田中さんを見送ったあと、当然ながらひとりになった。静かな夜だ。空調の音だけが部屋に充満する。広いリビングにぽつんとひとり。なんとなく物悲しくなって窓からの景色を眺める。眼下に広がる夜景はまるこぽーろでの出来事を思い起こさせた。会えると思っていたボスさんは現れず、やってきたのは設楽シャチョーだった。秘書がつくぐらいのひとなんだから忙しいのは分かっている。あのときにほかの用事ができてしまったのだからしかたない。でも今夜、ずっとここにいるのを知っていて、やってこないのは私に会う気持ちがないからだ。
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