俺様社長と付箋紙文通?!
とちぎに帰り損ねた私は、ウォール社長に電話をして応援を頼んだ。足をくじいて車の運転が不安だったので、ウォール社長にドーナツを持ってきてもらった。そのついでといってはなんだが、そのまま売り子を頼んでいる。身長181センチの彼は肩幅は広く、そっちに栄養が取られたのか胸は薄べったい。ふうと息を吹きかけたら倒れてしまそうな液晶テレビ並みの薄さだ。いつもまあるい黒ぶち眼鏡をかけて赤白横じまの半そでTシャツを着ているので周りからはウォールさんと呼ばれている(私は一反木綿のほうが近いと思う)。恰好だけでも目立つのに、今日はさらに変形させた針金ハンガーを首にかけ、そのさきに取り付けたハーモニカを吹き、肩からバンドを掛けてキーボードを固定して弾き、靴底に金属板を張り付けてリズムをとる。海外仕込みの大道芸人なのだ。で、ドーナツが一個売れるたびに曲を演奏し、騒々しいことになっている。

……のもあるけど。

実はもうひと団体、このエントランスパークをにぎにぎしくしている。“設楽ショッピングタウンとちぎ建設反対!!”と横断幕を掲げ、シュプレヒコールをしている。自然を破壊するな、とか、健全な青少年育成を、とか。とちぎにできる郊外型ショッピングモールの反対運動のようだ。人数は4、5人。1時間ほど活動して、1時間ほど休憩する。それを繰り返していた。

「どこにできるんですかね?」とウォール社長にたずねるが「とちぎでしょ」と答えるので、「とちぎのどこですかね?」と突っ込むと「とちぎのどこかでしょ」と答えたので放っておくことにした。彼はわれ関せずといった様子でハーモニカを吹きキーボードを弾き、タップダンスをする。見た目を裏切るその芸の質の高さには驚かされる。さすが有名処に師事していただけある。

そんななか、今日もバリキャリ女史がやってきた。私は昨日の宿泊代のお礼を書いた付箋紙をカードに貼り付けてお返しした。彼女は鼻を鳴らし、それだけ?、と言って颯爽とビルに消えた。意味は分からなかったけど、きっと私のことが気に入らないのだろう。

そんなこんなでドーナツが完売して、私はその反対運動をしているひとにたずねた。


「とちぎのどこにできるんですかぁ?」

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