社長の甘い罠~いつしか当たり前に~ + 番外編
「花菜、携帯に出てくる。」



健人さんが席を立ち、新幹線の車内から連絡通路に急いで歩いていく。


その後ろ姿を見送り、見えなくなると背凭れに深く凭れた。



暫くすると健人さんが隣の席に戻ってきた。



「花菜、お袋が家に来いと煩いんだ。だから今日は行けなくなった。」


「そっか、わかった。」


「花菜と離れたくないのに。」


「大事な用事なんでしょ?」


「…………。」



健人さんが無言になった。私が踏み込むべき問題ではないとわかった。


それから健人さんは私の肩を抱き寄せたまま、新幹線がホームに到着するまで離さなかった。



「花菜、また明日。」


「うん。また明日ね。」


「花菜。」


「ん?」


「俺は花菜と離れるつもりはない。これだけは忘れなるな。」


「えっ?」



意味不明な健人さんを見つめる。



「俺は花菜と一生一緒にいる。忘れるな。」



背を向けて歩き出した健人さんを見送る。



「一生か……。」



小さな呟きが漏れていた。
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