わたしは一生に一度の恋をしました
 真一がわたしの頭に手を置いた。

「由紀がほのかに謝っていたよ。ごめんなさいと伝えて欲しいって。由紀もほのかの幸せを奪ってしまったのではないかと気にしていた。ほのかがあいつと幸せになってくれることが二人を傷つけ、引き裂いたあいつにとっての救いなんだと思う」

 わたしは思わず真一を見た。
 彼はわたしから手を離し、屈託のない笑顔を浮かべた。

「さっきほのかは『甘え』だって言ったけど、それくらいなら甘えても構わないと思うよ。今まで泣き言を言わずに頑張ってきたほのかにご褒美を準備してくれたんだよ」

「誰が?」

 わたしは主語のない言葉に何気なく聞いてみる。すると真一は人差し指で自分の顔を指し示した。

 わたしは思わずわらってしまった。同時に目頭が熱くなった。

 いつも彼は迷うわたしに道を指し示してくれた。                   
 それは今でも変わらなかった。

「ありがとう」

「あと一つだけ。父さんに会って欲しい。どんなに時間が掛かっても構わないから。二十九年前のことで一番苦しんだのは、父さんとほのかのお母さんだと思うから」

 彼はそう笑顔で告げた。

 その笑顔にたどり着くまでにはどれくらいの苦悩があったのか、わたしにはわからなかった。

 わたしは彼の気持ちに報いるためにも頷いた。

「ありがとう。じゃあ、行くよ」

 真一はそのまま背を向けて走っていった。彼の姿はあっという間に見えなくなった。

「十年か」
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