わたしは一生に一度の恋をしました
 三島さんもお父さんもみんな変わったのだろうか。

 会ったとき、何を伝えたらいいのだろう。

 わたしは混乱する頭の中を整理するためにベンチの腰をおろした。

 最初に久しぶりとでもいえばいいだろう。そして、大学を卒業して就職したことを話しをして。どういう仕事をしているか話をして。

 頭の中で会話をイメージして苦笑いを浮かべた。
 こんなのを考えていても、当人にあったらシュミレーションなんて意味がなくなるに決まっている。

 わたしは紙袋をそっと抱き寄せた。
 三島さんにはまずは真一から預かった荷物を渡そう。
 さっきみたいな会話を彼は望んでいるのだろうか。それともそのまま帰るのがいいのだろうか。

 頭の中であれこれ考えるが、答えは出てこない。ただ、役目を与えられたことにほっとしていた。
 少なくともここにいてもおかしくはないためだ。

「ほのか?」

 強い風が吹いたらかき消されてしまいそうなほど小さな声がわたしの耳をかすめた。懐かしい声がわたしの胸を解していった。

 わたしは顔を上げた。

 するとそこには懐かしい姿があった。だが、その姿がすぐに霞んでしまった。一瞬だけ視界に映った彼の姿は十年前とさほど変わっていない気がした。

 わたしは唇を噛み締めると、状況を説明するために言葉を絞り出そうとした。だが、何度そう思っても上手く言葉が出てこなかった。

 わたしは顔を伏せ、紙袋を前に突き出した。

「真一、仕事が入ってすぐに戻らなくいけなくなって。これを渡してくれと頼まれたの」

 すぐにその重みがなくなった。これで頼まれた役目は終わった。
 堪えていた涙が溢れ出しそうになる。
 せっかく会えたのに、どうしたらいいかわからなかった。

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