わたしは一生に一度の恋をしました
 そのとき、森の中から枯葉を踏みつけるような音が聞こえてきた。わたしと三島さんはその音に反応し、振り返った。

 だが、森の中は太陽の光が遮られていて暗く、誰かいるのか判別もつかなかった。もし誰かに聞かれていたら、そんな予感がわたしの脳裏を横切った。

「動物だよね?」

 わたしは三島さんに同意を求めた。そう信じたかったのかもしれない。

 三島さんは黙ってただ音のしたほうを見つめていた。


 わたしは家の前で三島さんと別れた。彼はあれから「大丈夫だよ」と言い、そのことには触れようとしなかった。

 家の中に入ると、おばあちゃんが玄関に立っていたのだ。
 彼女はわたしと目が合うと、唇をそっと噛んだ。

「あの人の息子が来ているけれど追い返す?」
「息子って真一さんのこと?」

 おばあちゃんは頷いた。
 とっさにそう思ったのは、三島さんとわたしのお父さんについての話をしていたからだろう。

 彼がわたしの家を知っていてもおかしくはないが、ただ驚きだった。なぜ、このタイミングでわたしの家を訪ねてきたのだろう。

「いいよ。何か用事があるんだと思う」
「分かった」

 おばあちゃんは心配そうに客間に真一がいると言い残し、家の奥に戻っていった。

 わたしは玄関の目と鼻の先にある客間に入った。真一がソファにうなだれていた。いつもの太陽のような彼の姿は微塵もなかった。

「どうしたの?」

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