わたしは一生に一度の恋をしました
 何をしにきたのだろう。お父さんが……。
 そう思った直後、胸の奥が震えていた。
 父親なのに、決してそれを口に出すのは許されない存在。その矛盾がわたしの心を苛立たせ、わたしは唇を噛み締めた。

 だが、甘い気持ちに浸りそうになった心を抑えるために、冷たく言い放った。

「何か用ですか?」

「話は真一から聞いたよ。というかわたしが君の誕生日も含めて無理に聞きだした。あの子を責めないでやってくれ」

 わたしは唇を噛み、頷いた。
 彼は気づいたのだろう。自分の娘だと。
 真一にも随分酷なことをさせてしまった。

「この前は済まなかった。全然知らなかったんだ」

「それはわたしに謝ることではないと思います。だって、わたしの親はお母さんだけだったもの」

「そうだな」

 高宮和幸は天を仰いでいた。

「今から学校? 今日から冬休みだと聞いたけど」
「勉強するために。三島さんに教えてもらおうと思って」
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