わたしは一生に一度の恋をしました
「途中まで同行していい?」

 わたしが頷くと、どちらかともなく歩き出していた。
 彼はなぜわたしに会いに来たのだろう。

「君のお母さんと出会ったのもこんな日だったな。もうずいぶん前のことだけど」

 彼は懐かしそうに言葉を紡いだ。

「お母さんのことを覚えていますか?」
「一日も忘れたことはなかったよ」

 彼は唇を噛んだ。

「一緒に暮らさないか?」
「何言って。あなたには真一や由紀さんや奥さんが居るじゃない。それに」

 三島さんから高宮は婿養子に入ったと聞いた。離婚をしてしまえば、全てを失うことは必至だろう。


「今の生活や家族を捨てることは仕方ないと思っている。それでもわたしは君と暮らしたい」

 わたしは高宮の言葉に首を横に振った。

「罪悪感からですか? でもそれがわたしやお母さんのためなら止めてください。だってお母さんはきっとそれを望んでいないと思います。望んでいたら、身ごもったことを教えていたはずです」

 高宮和幸は黙ってしまった。彼にとっては一番痛いところだったのだろう。十八年間居ることさえ知らなかった娘のことは忘れるのが一番いい。
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