傍観者-RED ROAD-
「はぁぁぁあぁぁ………」
 心まで抜けて行って仕舞いそうな溜め息を一つ吐いて床に足を付ける。カーペットの床はやけに生温い。冷たいか熱いかのどっちかにしてほしいものだ。
(今日は何時もの倍以上愚痴が多いな…………私はきっと長生きしないな)
 制服をハンガーごと壁から取り、筆箱と財布しか入っていない鞄を掴んでようやく部屋から出る。部屋のドアを開けると、トーストの焼けたにおいがした。
「あ、お早う。気分はどう?」
 ドアがバタンと音を立てて閉まると同時に、流し台を向いていた月姫が振り向いて微笑んだ。微かにずれた視線に、私は視線を返す。
 月姫は私を見ているのではない。私の居る方向に視線を向けているだけだ。
 そう。
《同居人》の彼女は
 天月月姫(あまづき つきひめ)という彼女は



 盲目だから。



 だから見える筈が無い。
 その水晶体に、只私が映っているだけ。
 硝子玉に物が映るのと同じように。
「………っ」
 私が口を開いて月姫に対して言葉を晒そうとした、丁度その時だった。
「おっはよぉぉん☆気持ちの良い朝だねっ!今日も元っ気ですかー!!」
「…………」
 洗面所のドアがこれでもかと言う程勢い良く開け放たれ、頭痛の酷い頭に雷を落とすかの如くハイテンションな声が私を襲った。脳天を直撃された私は顔を思いきりしかめ、そいつを睨み付ける。
「朝から五月蠅いんだよお前は。声張り上げるなって何度言ったら学習するんだ?あ?同じ事言わせてんじゃねぇよ」
「あうっ酷いっ!折角清々しい朝を盛り上げようと妃七頑張ってるのに!」
「何が清々しい朝だ。お前の声は頭と耳に響くんだよ。テンション下げろ。下げないなら出て行け」
 脅すように言い、大袈裟に悲しい顔をするそいつを再び睨み付ける。
 これに似たり寄ったりのやり取りがほぼ毎日続いてきた。これからも同じように続いていくと考えただけでも気が遠くなりそうだった。
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