物語はどこまでも!
「俺が、ここにいた意味はどうなるんだ」
紛れもない自身がそのイメージを壊した。
聖霊ブックも、彼の意図が分からないのか文字は綴られない。初めて、人を食ったような性格のやつを打ち負かしたと気分が良くなった。
「お前たちの世界に行ったあと、ここの世界には戻ってこれるのか」
『まあ、戻ってこられないこともないけど、それにはかの方のお力が必要です。でもね、万能なるかの方はたった一人しかいません。現状、かの方はまだ顕現されておらず祈りを捧げるものがいないからこそ聖霊(あなた)の願いは優先的に叶えられますが、全ての生き物に認識される光臨はもう間近。その後のことなんて想像出来ますよね?
願って待てば必ず叶えてくれる万能ならば、あなたみたいな(祈りたい)人は星の数ほど出てくる。単純な話、あなたの順番が回ってくるまで途方もない年月がかかります。願いを叶える優先度(不幸度)も低いのであっては、特例も期待出来ない。何十年と待つことになるでしょう。聖霊に寿命はないから好きにしたらいいと思うけどあまりオススメ出来ることではありませんね。行きはよいよい、帰りは辛い。あら、違ったかしらー?』
そう簡単に世界間の移動は出来ないらしい。分かっていた。同時に安心した。そうほいほいと好きに願いが叶えられては、今までの苦悩が無駄になる気がしたから。
「さっき。俺がここで産まれた意味は、やるべきことがあるからと言ったな?」
『ええ。それが何かはあいにくと、そちらで産まれていない私には分かりもしないのだけど。“誰一人としていない場所にいるたった一人”だなんて、何もないっていう方が無理ある話じゃない?』
「それは、特別だな」
『でも、その“特別”をあなたが背負い込むこともないですよ?そこは辛いでしょう』
「ああ……。でも、『また来な』って言われたんだ」
あれほど脱したい世界だったというのに、いざその局面に立てば、後ろを振り返ってしまう。
あるのは膨大な本の山。どれもが出来上がった綺麗な輪であり、それを遠巻きに見るのが好きだった。
介入しないつもりだったのに、お節介な奴らが多く物珍しそうに話しかけ、こちらが嫌がってもつきまとい、“部外者”相手に『またね』と抜かす。
だからこそ、泣いたんだ。
そいつらの言葉に応えられなくてーー
『そちらの世界では、そこ以外にあなたの居場所はありませんよ。結局、一人ぼっちのままですが?』
「そうだな。だからこそ、俺の選択は間違っているんだ」
どこまでも救いようがない。綺麗な輪に入れずとも、それらに囲まれて生きていたいなんて。
あれほど泣き叫んだ。一人であることを嫌がった。けれども、それらの苦悩が“今まで”を捨ててまで解消されていいはずもない。
「俺は、ここにいる。それがきっと、俺の産まれてきた意味なのだろうから」
答えなどないと思っていたが、その実、目を開けば足元に転がっていた。
また泣く羽目にもなるし、ここで願わなかったことを後悔する時がくるかもしれない。しかして、生きていれば色んなことがあるーー“らしい”。悲しむ未来もあれば更にその先には。
「分からないからこそ期待しとく、ことにしとくさ」
何か文字が綴られた本だったが、閉じて、明後日の方向に投げつけておく。
「ほんと、救いようがない」
何がしたいんだかと呆れる反面、その顔は憑き物が落ちたかのように明るい。手元の本を取る。ああ、と思った。
「お節介な岩の相手でもしてやるか」
そうして、彼はまた輪の中に入るのだった。