物語はどこまでも!

「ちなみに、司書長はどんな欲求を……」

「内緒よー。これを言ったら雪木ちゃんに嫌われちゃうからー。でも、これ以上成長させるのはやっぱりまだまだ分からないことだらけだから自重するけど、行き詰まった時にはまた成長させてみるわー。今度は足が生えて、私の後をとことこ一生懸命ついてくる姿が見られるかもしれないじゃない」

赤ん坊で想像すれば可愛いことこの上ないが、手足生えた黒い芋虫がどこまでもついてくるなんて恐怖じゃないのか。いえ、大事なのは中身には全面的肯定ですけど。

「だから、私の心配はノーセンキュー。もしもの時は、『神頼み』しちゃうからー。あらやだ。私もこの時代に染まってしまってるわねー。何かあったら遅いというのに。でも、結局は誰かがやらなきゃいけないじゃない?『その時』に向けての対策を講じるに経験者が必要だと思うのよねー。愛情いっぱいに育てているから良い子のままでいると思うけど」

「何かあったら……」

「何とかするわ。私にはその力があるのだから」

上位聖霊と懇意にしているからこそ出る自信。頼もしいことこの上ないが危うくも思える。本来ならば止めるべきなのに、確かにこの人以外適任はいないと認めてしまう。

ここで私がやると挙手したところで、私ごときでは『その時』(もしもの時)に対応出来る訳がない。

彼の顔が過ぎるが、私の勝手に付き合わせるわけにもいかない。司書長は遠慮なく上位聖霊を頼るつもりだけど、私と彼はーーそこまでの仲じゃないんだ。

「……」

「こっちのことは何とかするから、雪木ちゃんは物語界でのことをお願いね。『そそのかし』の成長の仕方ーー栄養分が分かった以上、耳を貸してしまった(そそのかされた)人の近くには絶対に成長したこの子たちがいるはずだから。今までそれほど目立った成長をしなかったのは摂取量(欲求)の違いなのかもしれないわねー。仮にも大きな欲求ーー“何をしてでも物語の先に行きたい人”がいたとすれば危険を伴うかもしれないわ。そんな悪い物を食べちゃうこの子たちもだけど、そんな願いを持ってしまう人自体もまたとても危うく、出会った『その時』には」

何があるか分からない。
生唾を飲む思いとなるが、司書長はそれに苦笑で返す。

「ごめんなさいねー、脅かしちゃったみたいで。あのね、私が『そそのかし』の件を司書統括の子ではなく、あなたや野々花ちゃんに任せた理由はーーあなたが私にこの子を任せても大丈夫と思ってくれたのと同じことなのよ」

つまりは適任(安心)。
何かあっても何とかしてくれると思ったから。

野々花に関しては紛れもない実践派だからだろう。冷静に物事を思案し、迅速に対応が出来る。自分の身は自分で守って、それ以上に周りが傷つこうものならば我が身を以てーー“我が身を案じながら、周りを案ずる”という考えの持ち主だ。いつに活躍するかも分からない刀を常に持ち歩き……いや、六本も携えているから趣味も大半だけど、“そんなことを想像”しているからこそ鍛錬も欠かさず行っているらしい。いつ如何なる時でもーー『その時』が来ようとも、むしろ待っているかのような野々花にはうってつけの申し出だ。

そうして、私と言えば。

「彼が、いるからですか」

先刻、彼を付き合わせるわけにはいかないと思ったばかりなのに。

「そうね。彼、始終雪木ちゃんにべったりだそうじゃないー?ヒロインのピンチにヒーローが助けるのは望むべき展開だわー」

「私は彼がいなくとも……!」

続きに、詰まる。
彼がいなくとも、私に何が出来るというのか。

無能な頑張り屋さん。
そんなレッテルの上から、彼がいることで有能という文字が貼られているこの私に何を期待しろというのか。

司書長が期待しているのは私ではなく、彼なんだ。仮にも彼が別の相手をーー

「彼はあなたがいなくては駄目なのよ」


「っ……」

だからーー“あなただから”頼んでいると司書長は言う。

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