物語はどこまでも!

「本当に命は尊いものね」


ぽつりと、こぼされた一言がとても重く感じられた。

消えたと思っていた線香の残り香が鼻を掠める。小さい頃はこの匂いがーーお墓に関連することが嫌で仕方がなかったのに、時は全てを変えていく。

約束された幸福の日々で薄れそうになるからこそ、月命日には必ず行くーー両親のお墓。


ひどい話で、あれほど散々泣いたのに、今やお墓参りに行っても涙を流すことはなかった。両親を亡くしたのが三歳の時というのも悲しみが薄れていく原因なのかもしれない。

記憶の底にはしっかりある。組み上げれば泣くことも出来よう。けど、日常においてふとした時にそれが浮き上がってくることはなくなった。私も生きなきゃいけないんだと、成長してしまっているから。

時が経つとはそんなことだ。残酷ながらも、成長(生きる)のためには欠かせない要素。泣いてばかりの人生は辛いんだ。

「あの、本当に大丈夫なので。ご迷惑おかけしました」

『今を生きる』とはこのことであり、言葉だけでは成り立たない。だからこそ、更なる期待に応えようと、司書長にそう返す。

「彼の苦労が分かるわー。雪木ちゃんはもっと甘えてもいいのに。本当にお休みじゃなくていいの?」

心配そうな顔には心配要りませんとしか答えられない。命日やお盆にはがっつりと休みを貰えているのだし、月命日で半休を取らせてくれるだけでもありがたいだろう。早速、仕事に戻りますと伝えればーー心配そうな顔が、晴れる。

「じゃあ、雪木ちゃん。早速なんだけどー」


本当に早速、便利屋ならぬ頑張り屋としての勤めを果たせそうです……。







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