物語はどこまでも!
呆れきった顔は全てを察したかのようだった。彼は昔の小人たちの姿を知っているようだから、この変貌ぶりを認めたくなくとも受け入れなければならない。
ストーリー内での出来事はお話として、また始まりに戻ればリセットされる。しかして、こうして住人たちがそれぞれの意思で行動出来るページ外で起こったことは修正不可。ーーにしても、七人の小人とは程遠い姿になりすぎだ。
「いやぁ、俺たちも最初は普通の小人だったんだけど、そっちの世界の人が『七人もいるんだから、それぞれ個性を出した方がいいんじゃない?人気出るわよー』ってアドバイスくれたから、確かに自分のやりたいようにしたいって思ってね。努力に努力を重ねたら身長伸びたし、みんなから『きゃー、かっこいい!』って誉められちゃうほど顔も変わったし、物語が崩壊するわけでもないし、このままでいようかってことになりました!」
なんか、可及的速やかに問いただしたい人が増えるような声が聞こえてきたような。
「あんな、小人とは程遠い姿でもセーフっておかしくないですかっ」
「とりあえず、七人いるし、主役ほど重要な役でもないから、話さえきちんと進めればオーケーってことで判断されているんじゃないのか」
「物語界のルールって、そんなユルユルでいいのですかっ」
「本一冊一冊に限度値(ルール)は設けられているから、それさえ超え(破ら)なければいいんだ。ルールの限界は俺も不可視でね。どうやって決まるかも知らないが、とりあえず共通するのは物語を進めることにある。どんな姿になろうとも……だけど、ここではあのピンクが白雪姫の代理やろうとも許されそうだ……」
彼すらもため息をつくほどの有り様らしい。
「聖霊さま!思い出してくれましたかっ、私もうオコジョなんかに負けないほど強くなりましたよ!」
「ピンク、熊はどうしたんだ?」
「キャワワワ、二頭ほど担いでいたのに、黄兄さまを捨てる聖霊さまを見たものだから一緒に投げ捨ててしまったわぁ」
「セーレさんはモテモテデスネー」
「あれは論外だ。第一、オコジョごときに泣かされるガキがうるさいから、『それぐらいで喚くな。強くなって、もう泣くなよ』って言ったのは覚えているが、あれは違うだろう!」
彼の言うとおり、違う路線に行ってしまったピンクさんは、熱烈なウィンクを彼に投げつけている。
「そ、雪木。いくら愛する俺が他の奴から求愛されているからって、あれを絞めて落とした後、森に捨てるだなんて考えはやめてくれ。いくらっ愛するっ俺がっ他の奴から求愛されているからって!」
「強調された部分がまったくもって理解不能なあげく、ピンクさんには到底立ち向かう勇気はありませんので、あなたを差し出しても文句はないですよね」
「おい、そこのピンク!俺はこの通り、彼女と健全なるお付き合いをしているんだ!お前の頭よりも桃色の幸せを育む俺たちの仲は、何人たりとも邪魔立ては出来ないぞ!」
差し出される前に一芝居打ったよ、この人は。ピンクさんが、あからさまにショックを受けている。
「そ、そんなっ、私の初恋、だ、だったのにぃ」
「うるせえぞ、ピンク。ガキだからってわんわん泣くなよ。ほら、ハンカチやるから不細工な顔を隠せ。お前は泣いてない方が……いい」
チューリップのアップリケがついたハンカチを差し出し、ナイスフォローをするブラックくんを抱っこしたい衝動に駆られています。
「そっかあ、聖霊さん。そっかそっかぁ!ピンク、諦めなって、良かったじゃないか!見つかって」
「え」と、聞く間もなく彼が私より前に出た。その様子に、レッドさんは失言だったと口を塞ぐ。
「というより、お前ら。俺が捨ててきた黄色抜きにしても、六人しかいないが?」
あまりの個性派揃いで数の数え方も忘れていた。確かに、六人しかいない。配色からして、白が控えているのだろうか。
「ああ、七男、ね……」
ゲノゲさんが七男であれという妄想をよそに、レッドさんは小屋の入り口についていたパイプーーその穴に話しかけていた。
二階に繋がっているのかと思えば、パイプは離れの物置小屋まで繋がっている。一連の流れからして、あの小屋にいる七男にレッドさんは声をかけているとは分かるけど。
「ほら、七男。聖霊さんもいるし、彼女連れてきたんだぞ?お祝いしようって!え?全て消せ?いやいや、物騒だぞー。お前なぁ、日の光を浴びないから、性根が腐っちまうんだぞ。は?ともかく消せ?はあ、彼女いないからって、聖霊さんを妬むなって!お前も努力すれば、すぐに彼女が出来るぞー。ああ、もう、好きにするよ!」
レッドさんでも怒ることがあるんだ。すぐに柔和な顔に戻るが、どこか申しわけなさそうだった。
「すみません、図書館の人ーーええと、雪木さん、聖霊さん。あいつ、かなりの出不精で。物語が始まる以外は絶対に出てこなくて。それでいて知識はあるから、よく俺たちの助言者としてなくてはならない存在なんですが……飯寄越せとパイプ叩いたり、昼夜逆転生活しているから朝に起こすと怒りまくって、夜はガタガタと好き勝手にやったり」
「風さんが言ってるの、ヒキコモリノテンケイだって」
「待ちなさい、そもそもあの小屋にいるのは果たして七男でしょうか。慎重に考えて、兄弟たちに迷惑をかけて好き勝手生きているワガママな末っ子など、果たして我らのかわいい末っ子と言えますかっ」
「現実逃避すんなよな。末っ子だからって、赤兄貴たちが甘やかしたのがわりいんだよ。飯置いていかなきゃ外に出るってのに、三食きっちり小屋の前に置いてよぅ」
「あら、黒兄さまだって甘やかしているじゃない!小屋から投げ出された洗濯物を集めては洗って、干して、畳んでいるのを私見たわ!」
「外に洗濯物を起きっぱなしなんて不衛生じゃねえか!七男の、ええと、ええと」
「ハッハッ、そういえば七男の髪色は何色だったかなー」
「物語上で会いはしますが、なんとういか、末っ子だからいつも後ろにいてよく見られないというか。順当に行けば白ですが、いや、そもそも今見ているこの景色が偽りならば、色の認識も大きく変わってしまうのでは!」
「風さんが言ってるの、忘れたって」
「そうよねぇ。あの子、妙に影が薄いのよね。お日様の光を浴びないとやっぱり人は薄くなっちゃうのね!」
とりあえず、七男がとてつもない駄目男で影が薄いというのは分かった。