物語はどこまでも!
「皆さん揃ったところでお聞きしたいのですが、『そそのかし』という黒い虫をご存知ではないですか」
この現状は『そそのかし』のせいかと思えど、先ほどレッドさんの言った通りにみんな自分の意思で変わったようだ。肉体改造レベルで。
「『そそのかし』にこだわるね、雪木。業務でも増えた?」
「まあ、はい。『そそのかし』が人々を『そそのかす』のは栄養補給のためだと話されました。人々の欲求により成長するそうですから」
「仮にもこいつら全員の欲求を呑み込んでいたらとんでもないね」
「はい。捕獲命令は出ていませんが、情報の収集と、自身とその他の安全確保に徹するようにと言われてますが」
どうやら肩すかし。いつも通りの業務をこなせそうだ。
この七人のイケメンに対しても物申したい気分に駆られるが、本題は彼らが白雪姫を外(ストーリー)に出さないこと。
「白雪姫さんの件で話を聞きたいのですが。いますね?」
端的な質問をしただけでも、小人たちはあからさまに動揺していた。小屋の中にいるのは間違いなさそうだ。
「物語を進めないことは確実に崩壊へと繋がります。白雪姫さんをストーリー内に戻してもらえませんか」
「あー、でも、俺たちがこんなに変わってもセーフなんだから、大丈夫なんじゃないんですか?」
「ルールを軽視してしまう気持ちも分かりますが、先も言った通りストーリーを停滞させて産まれるのは崩壊です。終わりがこない物語にはじまりはない。本としての役割を失うのにこれほど明確なことはなく、だからこそ簡単に崩壊を招いてしまうのです」
それは困るとは小人さんたちとて分かっているだろう。歯切れ悪そうなレッドさん、でもと言葉を続けた。
「やっぱり、出来ないです。俺たちは、白雪姫を愛してしまったのだから!」
握り拳つきで、訴えられた。
「やっぱり愛故の監禁だったか」
「『わかるわかる』と頷かないように犯罪脳。ーーええと、あなたたちが白雪姫さんを、その、監禁しているのは、王子さまに取られたくないからとかですか」
「ああ!白雪姫は必ず王子さまと結ばれてしまう。それが俺たちは納得できなかったんです!」
「ええ、まったくもって。王子さまなどという、終盤にしか出番がないような、一目惚れだとかで眠っている乙女にいきなりキスをするハレンチ極まりない男に白雪姫を渡したくなどない。そんな犯罪行為をする男が王子さまであることも怪しいですからね!」
「風さんも言ってるの、白雪姫好きって」
「俺は白雪姫のこと何とも思ってねえけど、兄貴たちの恋を応援すんのが弟だからな。兄貴たちになら、白雪姫を絶対幸せにするって分かってるし。俺の兄貴だから……。こんな姿じゃあいつ守ってやれねえから、せめて、俺は」
「白雪姫って、すっごく肌が白くて、色んなお洋服を着せたり、一緒にお化粧したいんですっ。私の唯一の親友、ズッ友の仲なんだから!」
「因みに黄色も白雪姫のことが大好きなんだ。Dカップあるから。七男はーーまあ、好きなんじゃないかな。なので図書館の人、ここは一つ放っておいて下さい!何とかなりますって!」
「そんなふわふわした動機で帰れるわけがないです!」
「どの程度の愛かと思えば、浅すぎる。監禁するからには、自身の内臓全てが溢れるほどの愛情を吐き出せばいいものの」
「それは単にグロ注意映像です。何とかなりませんよ。まだ崩壊の兆しはありませんが、予告なくそれは訪れます。よく話し合って下さい」
「話し合うってもなー。ブルー、どうする?」
「そもそも彼女たちの話に信憑性がない。でしょう、グリーン?」
「風さんが言ってるの、白雪姫といたいって」
「ここはメルヘンなんだからさ、兄貴たちの恋は成就すんじゃねえのか。お姫様は必ず幸せになるように決まってんだ。白雪姫だって、幸せになんなきゃ間違ってんだろ」
「あらでもぅ、最後に王子さまと結ばれるなんてすっごくハッピーエンドじゃない?」
「えー、でもさ。結婚してから男は変わるって言うらしいだろう?」
「釣った魚に餌はやらないとは、あちらの世界の言葉だとか。嘆かわしい。お姫様一人も愛し抜けないとは」
「風さんが言ってるの、白雪姫は絶対に不自由させないって」
「兄貴たちがそんな男じゃねえのは、俺が保証してやるよ。白雪姫を不幸にするようなら、何回でも殴って目を覚まさせてやるよ」
「ならやっぱり、私たちといる方が幸せねっ。ーーということで、図書館のお嬢さん」
話し合いは良くない方向にまとまった。ならば、強硬手段もやむを得ないのだけど。