物語はどこまでも!
「ジャンケンっ、ポンっ!ーーあ、負けたぁ!もう一回。ブラックくん、もう一回いですか」
「はあ?じゃあ、三回勝負にしてやるよ。ほら、ジャンケンっ、ポン!ーーって、お前弱いな。三回するまでもねえし」
「五回!五回勝負にしましょう!『あっちむいてほい』もつけて!」
「ったく、仕方がねえな。ジャンケンっ、ポン!お、お前の勝ちか。ーーって、俺のほっぺたつんつんするんじゃねえよ!」
『あっちむいてほい』をするつもりが、指がもっちりほっぺに吸い付いてしまった。ああ、もう、癒やし。何やかんやで遊んでくれるブラックくんが可愛い。
「雪木は可愛いもの好きだよね。この前もゲノゲがたまたま物語に入ってきたら、はぐれないようにとかでずっと抱っこしてたし。……この世から可愛いものを排除してもいいかな?それか俺が可愛くなろうか。君にとてつもなく甘えよう」
「子供の前でベタベタしないで下さい」
俺は子供じゃねえというブラックくんの頬をむにむにしておく。そういえば、白雪姫と直談判しなきゃいけないのだけどもうちょっと。職務放棄ではありません、職務する上で必要不可欠なことですと自分に言い訳をしていれば。
「もう、やめてー!」
小屋から出てきた白い肌の美女。
ハンカチ片手に涙をこぼしながら。
「私のために、争わないで!」
悲痛満点な叫びをあげていた。
鶴の一声らしく、周りが静まる。小人たちがそれぞれ、白雪姫のもとへ行き、皆一様に慰めていた。
「もう、こんなことしないで。私のために争うだなんて。私はみんなに幸せになってほしいの!ごめんね、私がいるからみんなの仲が崩れちゃうんだね……本当にごめんなさい、私のせいで。でも、私もみんなと一緒にいたいの!例え許されることじゃなくても、みんなが私を幸せにしてくれた分、私もみんなを幸せにしたいの!だから、こんなことはやめて!私、見たくない!仲のいいみんなが、私のために争うだなんてー!」
「……悲劇のヒロイン」
それはもう、文字通りのヒロインだった。涙を拭うためのハンカチから時折チラチラと周りの様子を窺っては、私のせいで私のせいでと言ってみたり。小人さんたちがそれは違うと慰めても私のために私のためにとまた泣いて。
「自分の立ち位置に酔いまくっているね」
セーレさんの言葉には頷いてしまう。
本人には悪気はなく自覚さえもないのだろうけど、かなり厄介なヒロインだ。
無自覚ながらも十分にヒロインとして活躍できる場を見つけてしまった。小人たちの監禁に白雪姫が同意しているのもこのことあってか。