物語はどこまでも!

「あの、白雪姫さん。私、図書館『フォレスト』の彩坂雪木と申しますが」

「図書館の方!ごめんなさい、私のせいで!物語が崩壊すると思っても、私はみんなと一緒に暮らしたくて!本当にごめんなさいっ!」

「えっと、謝るならばストーリーを進めてほしいのですが……」

「いっそ、私だけがいなくなればいいのに!そうしたら大好きなみんなが傷つくこともないのにっ。こんな私がみんなのそばにいたいだなんて!謝って済むことじゃないけど、私もみんなと幸せになりたくて……」

「ですから、物語を」

「ああ、運命はなんて残酷なのかしら!叶わない願いと分かりながらも、願ってしまえば祈り続けるしかない。私はどうなってもいいの!だからどうか、みんなが幸せになる道へとお導き下さい!私は、どうなっても、いいからー!」

「……」

話し合い不可能です。
歌劇的な言い回しでも、小人たちは口々に『そんなことない』『白雪姫は悪くない』と甘やかしまくっているから、彼女の悲劇のヒロイン度は高まるばかり。自分を卑下しているように見えて、その実、周りからの評価を得て悦に入っているようにも思えた。

「どうして、ああいったことに騙されてしまうのでしょうか……。いえ、彼女自身自覚のない酔いしれにせよ、誰かが諭すべきでしょうに」

「愛は盲目と言うからねぇ。目を覚まさせようか?」

物理の拳には遠慮しておく。
にしても、困った。白雪姫自らがストーリーに戻りたくないと言っているならば、小人たちの目を覚まさせるしかないのだけど。

「あなたの盲目的な愛はどうしたら覚めるのでしょうね」

「さあ。この命が尽きようとも、君にまとわりつく執念があるから」

「あなたを例に対応策を考えようとしたのが愚かでした……」

「俺を例にするのがそもそもの間違いだよ。同等の対象がいない。俺の愛は他と比較出来ないほど法外だから。ーーそれを言えば、あいつらの盲目的な愛も浅いものだ」

勝ち誇ったかのような彼。続けて、任せてと言わんばかりの笑みを向けられた。

「図書館スタッフでもないあなたに頼るのは非常に申し訳ないと思っていたのですが……」

赤ずきんの時だったり、彼には助けられてばかりだ。貰いっぱなしでは気が引ける性分な上、仕事をこなせていない自分の未熟さを痛感してしまう。ギリギリまで考え、一人の力で何とかしたいと思うけどーー行き詰まれば結局、彼の能力に頼ってしまうあたり卑怯に捉えてしまった。

「シンデレラの時も言っていたね。それほど気にすることかなぁ?」

彼には似合わないおちゃらけたような言い回しーーつまりは、気にしなくていいと。

「あなたもあの小人さんたちのように、私を甘やかし過ぎですよ」

「それは、自覚はしていることではあるな。好きな人のためなら何でもしたくなるから。けど、俺が雪木のために出来ることってこれぐらいしかないから」

「私はあなたに、何も返せていませんよ」

まさか、そばにいるだけでいいと言うつもりか。それで彼は物足りないと思わないのか。


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