物語はどこまでも!
「俺が今、“返している最中”だから。雪木には返しきれないほどのものを貰ったんだ」
気にしなくていいよ、と微笑まれる。
「それにさ、ヒロインのピンチを助けるのがヒーローの役目だろ?雪木の頑張りを俺は見ているからね、最後に少し手を貸すぐらいいいじゃないか。俺から言わせれば、君はもっと誰かを頼るべきだよ」
気持ちが軽くなる言葉だった。
司書長といい、本当に優しい人に溢れている世界だ。だからこそ、私もまたそこで頑張れ続けるのだろう。行き詰まろうとも、挫折しようとも、すぐそこに。
「お願いします」
「任せてくれ」
私の手を取ってくれる人がいるから。
彼の物語改竄能力。いったいそれをどう駆使し、小人たちの目を覚まさせるのかと見ていれば。
「そうして、時は流れて一年の月日が経ちました」
淡々と、さながら絵本の一文を読むかのようによく分からないことを口にした。
は?と思っている最中、周りの景色が目まぐるしくなる。日が落ち、月が出て。緑が枯れ、また芽吹き。鳥が巣立ち、また卵を産み落とし。早回しで進む世界が止まれば、また同じ風景が広がるも空気が一変した気がした。
「セーレさん」
「一年経たせた」
端的に現状説明されても、把握には至らない。
「悪い王妃は白雪姫を探すよう狩人に命令するも、方向音痴な狩人のため度々森で遭難し、白雪姫を見つけるまで一年の月日が経ってしまいましたとさ」
「『とさ』と付ければ何でも物語らしくなると思ってます!?」
「この本はかなり崩壊までの限度値が緩いようだから、一年経たせるぐらい大したことはないと思って。周りの風景も変わらないし」
「でも、一年経たせたところで小人さんたちの愛が風化するとは思えません、が……」
と、口にした矢先、小屋の中から小人たちが一斉に出てきた。綺麗に整列し、真剣な顔で。
「俺たちが間違っていました!」
カラフル頭の深々な謝罪を受けてしまった。