物語はどこまでも!
「あの時、素直に図書館の人の言うことに従っていればとずっと思ってました。俺たちはとんでもない過ちを犯してしまった!」
「自身の考えが正しくないと疑うべきでした。今度からは自身のことなど信じず生きていこうと思います……」
「風さんが言ってるの、もうムリって」
「ほんと、どうしようもねえざまになっちまったよ。ったく、愛した女一人も守れねえなんて」
「きゃわわわわ!聖霊さまよー。相変わらずかっこいいですわぁ。やっぱり私が真に愛すべきなのは聖霊さまだったのよぅ!」
「そう!俺たちは白雪姫を愛してはいけなかったんだ!なあ、みんな!というわけで、図書館の方。白雪姫を解放します!なので、どうか、どうか!白雪姫をもとに戻して下さい!」
まとめたレッドさん。白雪姫の監禁をやめてくれるのは嬉しいことなのだけど。
「戻す……?」
やけにつっかかる言葉を繰り返せば、小人たちは全員私から顔を背けた。
「見てもらった方がいいだろうね。待っててください。ブルー、起こしに行って」
「それならイエローがやっています。ーーが、一人では無理でしょう。仕方がないピンクも手伝いに行きなさい」
そうブルーさんが言った途端に小屋から悲鳴が上がった。続いて、何かが壊れていく音。
「風さんが言ってるの、イエロー死んだ」
「それよか、また床ぶち抜いたんじゃねえのか。また張り替えかよ」
「木はいくらでも持ってこれるけど、毎朝起きる度にこれじゃあ、いやん!腕に変な筋肉ついちゃうじゃないっ」
小屋の中で何が起こっているのか、先ほどから地響きが止まらない。ピンクさん登場時よりも重々しくゆっくりとした速度で現れたのはーー真っ白な鏡餅だった。
「はい?」
自分でも不可解な光景に目をこすって再確認する。外に出ようとするも、その鏡餅は巨大なためつっかえて出てこれない。やがて入り口の枠が悲鳴を上げて壊れる。その拍子にごろりと転がるはやっぱり鏡餅なのだけど。
「やめてー、ふ、ひふっ、私のためにー、ふーふー、争わないでー」
聞き覚えのある台詞を話すのは鏡餅で、よくよく見ればてっぺんに頭がついていて。
「し、白雪姫さん!?」
顎の贅肉で首が埋もれ、背中にも胸があるかのように肉が突出し、その胸よりも大きいウエストの段々腹はその重みで鬱血しており、尚も肥大化している臀部はさながら土台のように体を支えていて、まあ、つまりは太ったということなのだけど。
「どこをどうしたら、一年でそこまでなるのですか!?」
尋常じゃない太り方をした白雪姫は、100キロやそこらの話ではないだろう。もはや人間を超越してしまったかのような、人間ってここまで太ることが出来るのかと一周回って人体の神秘すらも感じてしまうほどだけど。
「健康に悪いです!長生きしましょう!」
「いいのよ、ふひー、私なんか長生きできなくたって、ふっふっひー、みんなが幸せなら、それ、ふひー、ふひー、ご、ごめんなさい、息を整えさせ、て、ふーはー、久々に歩いたから、息が、そ、外にも久々に、ふーふー」
「あなたたちが白雪姫を監禁しているからああぁ!」
思わずレッドさんに詰め寄ってしまう。レッドさんとて自覚あるのか最初は謝っていたものの、弁解を始める。
「い、いや、俺たちも白雪姫がどんどんデーーげふん、変わっていくのはまずいと思ったから、少しは元の状態に戻れるようしたんだけど。ブルー!お前がいつも白雪姫にお菓子を持って行くから!」
「そ、それは、白雪姫が空腹を訴えるから。例え、数分前に食べたとしても白雪姫がお腹空いたと泣くなら与えるしかないではありませんか!グリーンだって、毎回食事をあげてましたよ!」
「風さんが言ってるの、白雪姫に不自由させないって」
「食わせた分、運動させれば良かったんだよ!なのに兄貴たちは外に出たら王子に取られるとかなんとか!好きな女ぐらい他に行かねえように惚れさせろよな!」
「でも運動しようとしても、あの子すぐに
バテるのよねぇ。一緒に丸太を担いで森をウサギ跳びで五十周しようって誘っても余計に引きこもっちゃったしぃ。部屋から出なくてもブラック兄さんが身の回りの世話をしてくれるから、あの子しばらくベッドから動かなくなったのよねぇ」
「というわけで、図書館の人!白雪姫を愛するがあまり甘やかし過ぎてしまったみんなの責任だが、白雪姫がデブーーげふん、変わってしまったのは彼女自身が動かず食べまくったせいでもあるんです!」
「連帯責任で罪が軽くなると思ったら大間違いですからねっ」
小人たちの目は覚めたが、取り返しの付かないことをしてしまった。うわぁとうなだれるしかない。
「ね?浅い愛だろう。好きな人が少し変わっただけで、目が覚めるほどの愛だ」
「そんなあなた曰わくの深い愛は?」
「雪木が寝返りも起き上がりも出来ず、着替えも食事も、排泄さえも、外に出ることも出来ないほどになるなんてーー俺なしでは生活することもままならない状態になることを想像しただけでも興奮する。愛する人の全てを管理し、その行動一つ一つが君の生命維持に繋がると思うとーークッ」
「その興奮は私の老後にとっておいて下さい……」
明らかに健康体でいられる年齢でやるべきことではないだろう。