物語はどこまでも!

「こ、このままじゃ、お話しが進まない……。とりあえず、今の周回さえ終われば良いのですから、私が白雪姫の変わりに……」

「その時は問答無用で俺が王子様役だね!」


「白雪姫さーん。とりあえず、ガラスの棺は用意したので寝たふりして下さい」

眠る前から私にキスをしようとする彼に体当たり拒否をしつつ、白雪姫に指示を出す。

小人さんたちが用意したガラスの棺なんだけどもーー白雪姫が寝そべるなり、ベチャッと潰れた。『パリンッ』ではなく、『ベチャッ』。脂肪は音すらも吸収する万能性を秘めいてるらしい。

「ふー、ふーっ。お、王子様、こ、こんな私でも愛してくれるかしら」

「大丈夫だって白雪姫!お前は可愛いまんまなんだからさ。ほら、もっと可愛くなるようにお花をたくさん置いとくぞ」

「ええ、心配は要りませんよ。一見すると、以前の白雪姫と大きく違いますが、よくよく見れば白雪姫に見える気もしなくはありませんし、そも、我らが思うかわいいという法則が何者かによって植え付けられたイメージでしかない可能性もあります。なので、あなたは可愛い白雪姫でしょう。分かりやすいように『可愛い白雪姫』との看板を置いときます」

「風さんが言ってるの。大丈夫。これ、幻覚を見せる胞子が飛ぶキノコ。風さんが胞子を運んでくれる」

「大事なのはハートだ、白雪姫。今も昔も俺にとっちゃ、お前はただの女の子だ。ほら、ベトベトになった口元を拭いてやるよ。顔も脂でベタベタだしな」

「そうよぅ、しらゆきんん。女の子はみんな恋するお姫様。可愛い生き物って決まってるの。自信を持って、お化粧してあげるわぁ」

ナイスフォローをしているようで、みんな必死でごまかそうとーーあ、いや、白雪姫を可愛くしていこうとしているけど。

「赤い奴の花布団でさらに“かさ”が増し、青のあからさまな看板で疑惑度が上がり、緑のキノコは早速当の白雪姫に食べられ、黒ガキがリンゴのアップリケついたハンカチで健気に口や顔を拭こうが、ピンクの化粧を落としまくっているね」

「しーっ、しーっ」

事実だけど、必死な方々に突きつけるべき現実ではない。セーレさんにお口チャックを命じておく。

「みんな、ありがとう。ふーっ、ふー。わ、私分かったの。みんなが私のために争うことが、とても、く、ふーふひーっ、苦しかったけど、そこまで大事にしてくれたんだって。だ、だから、私も、大事なみんなの願いを叶えたい。ふひー、わ、私、王子様と結婚するわ!」

ああ、もう、さっさとそうしておくれ!と言わんばかりの拍手が起こる。私としても問題が解決して助かるのだけど。

「釈然としない……」

「そうか。雪木はそんなに白雪姫役をやりたかったのか。王子様たる俺と口付けをするために!」

「釈然としましたー。王子様ー!王子様ー!白馬に乗った王子様はおりませんかー!白雪姫がお待ちですよー!」

私は私で彼の相手をするのが疲れてきたため、継母さん同様にどこかで待機していた白馬の王子様を呼んでみる。

ややあって、蹄の音が響いた。

「おお、なんと美しい女性なのだろうか」

颯爽と現れた白馬に乗った王子様は、これまた白かった。全身を純白コーデで決め、唯一ある頭の王冠は金色に輝くが、肌からして白い。漂白剤入り洗剤で入念に洗い、清々しいお日様のもとで乾いたタオル並みに透き通った白さだ。……この例えもどうだと思うけど、王子様を見た瞬間に洗剤のCMが脳内に流れてしまったのだから仕方がない。

そんなホワイト王子様。睫毛が長い白馬より優雅に下り、美しい女性だと。

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