物語はどこまでも!

「セーレは本当に優しい。出来るのにやらないのは、僕が消えてしまうからか。やったことがあるよね?雪木ちゃんと出会ってから君はもう何度も、現実の世界に行こうとしているのだから」

彼の目が伏し目がちになり、過程、私と目があった。悲しげでありながらも、どこか悔いるような眼差しだった。

「責めないであげてね、雪木ちゃん。セーレは本当に君が好きで仕方がないんだ。絵本の住人たちを助ける傍ら、離れてしまう君を待ち続ける日々。いっそのこと、君をこの世界に閉じ込める力もあるのにそれをせず、ただただーー。はは、いい悲劇だねぇ。でも完結はしていない。いくらでもセーレが思い描くハッピーエンドになる可能性だってあるんだ。『生きていればその内、良いことがある。期待しておくものだ』が正に叶い、彼は更に幸せになろうとしている。

羨ましいよ、ひどく羨ましい……!期待通りになってーー“もう夜泣きをしない子が戻ってきて良かったねぇ”!」

ウィルの言葉が撃鉄となった。
その言葉の真意を考える前に、彼が駆け出す。

何とも聞き取れない言葉。獣のそれと同じように、本能(怒り)に身を任せた彼は獲物(標的)に斧を振り下ろした。

「優しい、優しいな、セーレ。僕程度も殺せないだなんて!」

その一撃をいとも容易く受け止めるのは、同じ刃を構えていたからだった。真正面から堂々と受け止め、せせら笑う。

「受け止めやすい攻撃をありがとう。僕が怯えて腰を抜かすのを期待した?残念だね、これは期待通りじゃなくて!」

やせ細った身からは想像出来ない力で彼を押し返してーーいや。

ウィルと彼の体格差は明白だ。力押しで負けるわけがないのに、まったく真逆のことが起きている以上。

「手加減、しているの……」

それを愚かなこととは思わなかった。少女を攫う明らかな悪者であろうとも、彼にとっては大切な絵本の住人(友人)。表面上は素っ気ない態度ばかりだけど、みんなから愛されている以上、みんなを愛してしまった人を否定することなんて出来ない。

「……くそっ」

それは彼の葛藤の表れか。殺せる相手のはずが出来ず、かと言って引くわけにもいかない。

「せっかくの顔が台無しだねぇ。雪木ちゃんからの応援あれば、彼も僕を簡単に殺してくれるのかな。ああ、それでもいい。終わらせてほしいも、僕の願いの一つだから」

挑発的な態度は、“それ”が出来ないからこそできることだった。

枯れ木の青年は、私のことを知っている。
私がこんなことを望まないことを知っている。

必死に考えていた。何か案はないかと、最優先すべきは何か。何が最良か。

無能な私に出来る唯一のことはーーそう、いつだって。

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